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東京高等裁判所 平成元年(ネ)4373号 判決

控訴人 斉藤清重

同 宮澤忍夫

同 坂口幸隆

同 青山智恵子

同 小林延雄

同 村山いと江

同 田中晋司

同 伊藤邦広

同 宮澤國夫

右九名訴訟代理人弁護士 和田清二

上條剛 富森啓児

被控訴人 亡市川勘一訴訟承継人 市川よしゑ

右訴訟代理人弁護士 小笠原市男

上野修 竹田真一郎

主文

本件控訴をいずれも棄却する。

控訴費用は控訴人らの負担とする。

事実及び理由

第一事案の概要及び当事者の求めた裁判

本件控訴は、控訴人らが、地方自治法二四二条の二第一項四号の規定に基づくいわゆる住民訴訟として、亡市川勘一(以下、「亡市川」という。その訴訟承継人が被控訴人である。)に対して原判決別紙物件目録記載の各土地(以下、「本件各土地」という。)を長野市に引き渡すこと及び昭和六三年九月一三日から本件各土地の引渡済みに至るまで一箇月金四一万円の損害金を長野市に支払うことを命じる裁判を求めるため、原審で、民訴法七五条の規定により、長野地方裁判所昭和五七年(ワ)第三〇五号土地引渡等請求事件(原告・長野市、被告・亡市川。以下、「第三〇五号事件」という。)に参加する旨の申出をしたところ、原審において右参加は不適法として却下されたため、控訴人らによって右却下の裁判に対してなされたものである。

なお、長野市は、第三〇五号事件において、亡市川に対し、本件各土地を長野市に引き渡すこと等控訴人らが本件共同訴訟参加において亡市川に対して求めているのと同内容の裁判を求めており、右事件においては、原審において長野市が勝訴し、被控訴人市川が控訴した。

本件控訴において、各当事者が求めた裁判は、次のとおりである。

一  控訴人ら

1  原判決を取り消す。

2  本件を長野地方裁判所に差し戻す。

二  被控訴人ら

主文一項と同旨。

第二当事者の主張及び証拠

本件控訴に関する当事者双方の主張及び証拠の関係は、原判決の事実摘示中、長野地方裁判所昭和六三年(ワ)第一六四号共同訴訟参加申立事件に関する部分のとおりであるから、これを引用する。

第三理由

一  当裁判所も、控訴人らの本件共同訴訟参加の申出は不適法であるから却下すべきものと判断する。その理由は、次のとおりである。

控訴人らは、その主張によれば、長野市の住民であるところ、甲第四、第五号証各覚書の契約には同市の主張する瑕疵があるほか、これとは別の公序良俗及び社会正義に反する無効事由があるのに、同市は、亡市川を被告として本件各土地の引渡し等を求めるにつき(第三〇五号事件)、右の無効事由の主張をせず、適切な訴訟活動をしていないので、この点においても地方自治法二四二条一項にいう違法又は不当に財産管理を怠る場合に当たるとして、同項に定める住民監査請求を長野市にし、これが却下されたことから、本件共同訴訟参加の申出をしたものである。

しかしながら、地方自治法二四二条の二第一項四号の規定に基づく住民訴訟は、地方公共団体が同法二四二条一項所定の地方公共団体の執行機関又は職員による違法な行為又は怠る事実に係る相手方に対し、実体法上同法二四二条の二第一項四号所定の請求権があるにもかかわらず、これを積極的に行使しない場合に、住民が地方公共団体に代位して右請求権に基づいて提起するものである(最高裁判所昭和五〇年五月二七日第三小法廷判決、裁判集民事一一五号一五頁参照)ことから、地方公共団体が自ら同法二四二条の二第一項四号所定の請求権を行使して損害賠償等の訴えを提起している場合には、住民が地方公共団体に代位して当該権利を行使し、重ねて同一の訴えを提起することは許されないものと解すべきである。同号による住民訴訟は、実質的にみれば、権利の帰属主体である地方公共団体と同じ立場においてではなく、住民としての固有の立場において権利を行使するものであって、代位請求の形式は、訴訟技術的配慮に基づくものであり、この点において、右訴訟は民法四二三条に基づく訴訟等とは異質のものであるが(最高裁判所昭和五三年三月三〇日第一小法廷判決、民集三二巻二号四八五頁参照)、地方自治法が住民の権利の行使を地方公共団体の有する請求権を代位行使するという形式において認めた以上、本人である地方公共団体が既に右請求権を行使しているときは、住民は、重ねて当該権利を代位行使することができないものというべきである。民法上の債権者代位権の行使は、債務者が自ら権利を行使しない場合にのみ許されるものであって、債務者がすでに自ら権利を行使している場合には、債権者は債務者を排除し、又は債務者と重複して債権者代位権を行使することはできないものとされているところ(最高裁判所昭和二八年一二月一四日第一小法廷判決、民集七巻一二号一三八六頁参照)、その趣旨は、住民訴訟についても妥当するものというべきであるからである。

そして、第三者が民訴法七五条の規定により訴訟に参加することが許されるためには、当該訴訟の目的が当事者の一方及び第三者について合一にのみ確定すべき場合であることのほか、第三者が当該訴訟の当事者となりうる適格を有することが要件であることは、同条の法意から明らかであるところ(最高裁判所昭和三六年一一月二四日第二小法廷判決、民集一五巻一〇号二五八三頁参照)、右に説示したように控訴人らは、長野市が提起した第三〇五号事件の請求につき当事者適格を有しないから、控訴人らの本件共同訴訟参加の申出は不適法である。

なお、控訴人らは、参加の根拠として、右事件における長野市の訴訟追行が違法又は不当に財産管理を怠る場合に当たることをも指摘する。しかし、地方自治法二四二条の二は、地方公共団体の違法又は不当に財産管理を怠る事実につき、行為の差止め、行為の取消し、怠る事実の違法確認又は損害賠償の請求等についての住民による訴訟を許容するが、怠る事実が係属中の訴訟の追行に関する作為又は不作為である場合においては、住民に許容される行政庁等に対する訴訟行為の差止め、取消し等の請求や当該訴訟行為に関して生じた相手方に対する損害賠償等の請求は、当該係属中の訴訟における請求とは別個の請求であるから、このような住民訴訟が許容されることをもって、住民が当該係属中の訴訟に共同訴訟参加をすることの根拠とすることはできない。そして、本件訴訟における弁論の経緯を検討しても、長野市の訴訟追行につき、違法又は不当に財産管理を怠るものというべき事実を認めることができない。

そうすると、控訴人らによる本件共同訴訟参加は、不適法であるから却下を免れない。

二  よって控訴人らの本件共同訴訟参加の申出を不適法として却下した原判決は相当であり、本件控訴はいずれも理由がないからこれを棄却することとし、控訴費用の負担につき民訴法九五条、八九条、九三条を適用して、主文のとおり判決する。

(裁判官 小川克介 裁判官 南敏文裁判長裁判官 橘勝治は、転補のため、署名捺印することができない。裁判官 小川克介)

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